パブコメ用に書きました。長文ですが、ご参考に。
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横浜市の情報化計画に関する意見
横浜市が9月末に公表した「横浜市情報化の基本方針」を読んで、「何とまあ時代遅れなことを」と思ってしまいました。
横浜市だけではなく、日本人の大半が、「情報化」=コンピュータやインターネットを使うこと・・・と思い込んでいて、そのことが目的化してしまっています。
情報化は目的ではないのです。
私たちの暮らしを良くするために、情報や情報機器を上手に使うことが、求められているのです。そして、主人公は人間です。横浜市の情報化の主人公は横浜市民です。
私は、新聞社のデジタル部門で10年余働きました。産業技術総合研究所の情報処理技術部門の研究評価委員を約10年務めていました。日本のIT関係者のフォーラムである「日経デジタルコア」の代表幹事を10年間やってきました。
そういう知見から、下記の意見を述べたいと思います。
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情報化とは何か?
情報化とは、コンピュータやネットワークを使うことではない。情報を上手に利用できるようにすることで、コンピュータやネットワークなしでも実現できるが、あったほうが効果が大きくなる部分はある。
情報化には二つの方向性がある。一つは効率化して、コストを下げる効果。もう一つは、情報を活用することで、組織が元気になるなど、活力が増す=「増力化」・・・という方向で、日本では、前者ばかりが注目されるが、大局的に見れば、後者の方が、社会的効用は大きい。
情報化は、情報を速く、正確に伝達することで、行動の連鎖をスピーディーに行うことというのが一般的なものだ。しかし、後述する「ヒトの情報化」では、情報を受け取ったヒトの判断力、理解力で効果が左右される。そこで「ヒトを鍛える」ことが重要になってくる。
ただ、「増力化」では、効果の測定を客観的にやることが難しいケースが多く、しっかりした価値観を持った上で進めることが肝要だ。
モノの情報化」「コトの情報化」「ヒトの情報化」
情報化の対象として、「モノの情報化」「コトの情報化」「ヒトの情報化」がある。
モノの情報化は、生産管理など、物体のハンドリングを情報化によって効率化すること。
コトの情報化は、映像など、現象を撮影、伝送、放映するなど、現象のハンドリングに関係することだ。
ヒトの情報化は、人間が情報を受け取って、それを自身の行動に活かすことだ。
モノやコトの情報化は、設計通りの効果が期待できるが、ヒトの情報化は、日地の能力に依存する度合いが高く、失敗する場合もあるが、予想外の大きな効果を生むことがある。
自治体の情報化では、「ヒトの情報化」・・・すなわち市民力の向上を上手に設計することで、大きな成果が生まれる。
L字型産業としての情報産業
情報産業といわれるものには、コンピュータなどの情報処理機械、そのソフトウエア、情報処理サービス業、通信事業、通信機械製造業、新聞・テレビ・書籍などのコンテンツ制作業などというものがある。しかし、それだけではない。自動車製造業、電気機械製造強、各種のサービス業、農業や漁業、医療や福祉まで、あらゆる産業に情報化の要素を加えることで、効率化や増力化ができる。
行政においても、あらゆる部門で情報化の効果を期待できる。
目標のない情報化は無意味
前述のように、情報化を目的化することは、「情報マニア」を増やしたり、情報機器などに無駄な投資をすることにしかならない。
「何を目的として、情報技術を手段として使うか」という組み立てが大事だ。
横浜市は2006年に横浜市基本構想(長期ビジョン)を策定している。
柱になっているのは、「市民力と創造力により新しい「横浜らしさ」を生み出す都市」ということだ。
(1) 市民力(市民の活力と知恵の結集) の項には「市民一人ひとりが広い視野と責任感を持って自発的に地域や社会活動に参画し、知恵と行動を結集することにより、生き生きと暮らせる都市の魅力と活力をつくりあげていきます」という記述があり、
(2) 創造力(地域の魅力と創造性の発揮) の項には、「世界の中の横浜としての役割を担っていくために、横浜ならではの魅力「横浜らしさ」を、誇りを持って世界に発信します」という記述がある。
この「市民力」も「創造力」も情報化によってサポートされてこそ、大きく花開いていく・・・そういう視点が、「情報化の基本方針」には欠けている。
アクティブ・シティズンの育成
横浜のSNS「ハマっち!」の運営会社であるシンフォシティが考えていることは、「横浜をアクティブ・シティズンによって支えられる都市にしたい」ということだ。
それは、「広い視野と責任感を持って自発的に地域や社会活動に参画し、知恵と行動を結集する」という基本構想の記述に一致する。
地域にある問題を提示し、議論し、解決策をまとめ、自身が行動に参加する・・・そういう道具としてSNSを活用したいと考えている。
横浜市民のだれもが、「広い視野と責任感を持って自発的に地域や社会活動に参画し、知恵と行動を結集する」ということにはならない。しかし、そうした市民(アクティブ・シティズン)が数多く存在し、それぞれの地域でリーダーシップを発揮することで、都市の活力は大きく向上する。
最適行動をサポートする
生活にしても仕事にしても、生きることのすべてが、行動であり選択だ。
情報が豊富にあり、それが適時、的確に、必要としている人に届けられることで、それぞれの人の行動の的確性が向上する。
もう一つは、人が人を知ることだ。
人間は一人では生きていけない。協力する相手はだれか、その人はどういう性格で、どういう能力を持っているか・・・それを各市民が幅広く知ることで、多様な「協働」を組織できる。
その道具として、SNSそのほかの情報ツールをうまく活用することが必要だ。
以上のような観点から、「情報化の基本方針」を全面的に見直すべきと考える。
(2010/10/26 文責:坪田知己=(株)シンフォシティ取締役)