前々回につづいて、椎名誠。 ビール関係のこういうの、好きです。 なお、もとの本は10年くらい前、まだ20世紀の時分に購入したものです。 > 今年はサントリーのスーパープレミアムというビールに出会って嬉しかった。 > 府中工場でしか手に入らない逸品で、小瓶しかないようだが、 > これを大ぶりのグラスにとくとくとくとくじゅわー(泡のふくらむ音)と注ぎ、 > いっとき全体が鎮静化するのを待っておもむろに「くいくい」やるとき、 > まあいっちゃあなんだが人生の至福というものをつくづく感じる。 > つらいことも多い人生だが、しかしこういうヨロコビもあるからなぁ・・・ > と素直に頷くのである。 > 町で夕方の時間を迎える日は、生ビールのある店を探す。 > このところ生ビールを出す店が急に増えたようで“生ビール命”の当方としては > まことによろこばしい限りである。 とか、 > そういうとこは、生ビールはまずいが酒の肴は旨い、というような例はまず皆無で、 > 要するに一事が万事なのである。だから一発目の生ビールが勝負なのだ。 > で、勝負! > いやはやよかった。ジョッキがきめこまかくて大、中、小とあって、 > 中をたのんだら、札幌のビアホールやドイツのレストランなどで主流の、 > 把手のついていない大ぶりのグラスで、泡立具合も泡の加減もまことによろしい。 > いかったいかった・・・・と一人でよろこびながら、 > 目をつぶってうぐうぐとやった。 > 鯖のへしこ、という肴がうまかった。鯖のぬか漬を焼いたもので、 > これは弁当のおかずにしても実にうまそうだ。 > 日本海のいかも絶品。路地をへだてたどこかの店から聞こえてくる > カラオケの演歌も本日は〝いい仕事〟をしている。一事が万事なのだ。 あるいは、 > ピータンとあんかけカタヤキソバに生ビールを注文した。 > 大柄な派手な化粧をしたその店のおネーさんはおっそろしく愛想が悪い。 > 怒ったようにブスッとしてコトバが何もない。 > ただもうぞんざいにメニューを差しだし、注文すると黙って店の奥に去っていく。 > ま、でもしようがないか、と思いつつ本を読んでいると、やがて生ビールとピータンがきた。 > この素早さはなかなかいい。 > ピータンの上に細切りネギがそえられ、油のまじった醤油がかかっていて、 > 辛子を少しつけて口にすると、これがまことにねっとりとしてエキゾチックにうまい。 > 生ビールもいい冷え具合で先週の松本駅前びしゃびしゃ生ビールと雲泥の差である。 > ジョッキでなくて大ぶりのグラスというのもよろしい。 > 続いて出てきたあんかけカタヤキソバは、一見単純なつくりのように見えたが > ひと口たべてびっくりした。内にひそんだ豊潤な切れ味とでもいうべきか、 > カリカリチリチリしてビールによく合う。生ビール三杯のおかわりをした。 > 大柄なおネーさんは最後まで無愛想のかぎりであったが、しかし > そのときフト思ったのは、とてつもなく愛想がよくてサービスがよくて、 > しかし出される料理は途方もなくまずいのと、こういう店とどっちがいいか・・・・ > ということであった。 氏の文章、《全体的にひらがなが多いなぁ、、》と思っていても 「醤油」などはきっちり漢字で書くのですねぇ。 |