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2010年04月20日(火) 

2010417日は、アポロ13号が地球に帰還を果たしてちょうど40年目に当たる日である。「成功した失敗」と評されるこのミッションは今でも世界で語り継がれるNASAの結束と執念のドラマであり、1995年にはトム・ハンクス主演で映画化もされた有名な話である。中学時代の夏休みの自由研究のために書きあげた文章を見つけたので、ちょっと手を加えて載せてみる

□前年69年にアポロ11号が静の海に人類初の月面着陸を果たしたのは鮮烈な記憶として残っている人が多いかと思うがNASAの職員にとっては、どうやらアポロ13号を生還させたことのほうが、重大事であったようだ。

□アポロ13号は、アポロ8号で月周回軌道を飛行し、13号が4度目のフライトとなるジム・ラベル船長。余談だが、このミッションでは2つの有名すぎる写真を撮影していて、一つは「地球の日の出」とよばれる半月状の地球が荒涼とした月面から出てくる写真と、「ブルー・マーブル」と呼ばれる地球のワンシャッターフルショット(未だに地球をフルショットでとらえた写真は前にも後にもこの写真しかない)を撮影して地球に持って帰ってきている。月着陸船パイロットはフレッド・ヘイズ、彼は後に18号の船長に就任する予定であったが、予算削減のために中止、スペースシャトルの開発に携わる。司令船パイロットは直前の3日前に風疹の疑いで交代を余儀なくされたケン・マッティングリーに変わって抜擢されたジャック・スワイガート(初の独身宇宙飛行士)。この3人がクルーで、地上側の責任者(ヒューストン)は主席飛行管制官ジーン・クランツであり、彼の卓越したリーダーシップ能力こそがこの生還劇を成し遂げたに違いない。

□話をミッションの方に戻すと、13号はフラ・マウロ高地とよばれる、「高地」「山脈」「谷」などが入り乱れており、月の起源を探る上で地質学上もっとも重要視されていた場所で、着陸はできなかった13号にかわって14号が着陸したことからもかなりのこだわりがあったところである。411EST /CST1313分(この時点で不吉である)フロリダ州ケープケネディのLC-39Aから打ち上げられ、直後に第一段エンジンのセンターエンジン(5機あるうちの中央1機)が停止するというハプニングはあったものの、若干の延焼時間延長をし、予定の高度、予定の速度で、大気圏脱出に成功する。

ロケットを切り離し、司令船(オデッセイ)、支援船、月着陸船(LEM、アクエリアス)が3機連結された形で月への順調な飛行がつづいていた。

しかしフライト3日目の夜(ヒューストン時間で)、アポロ13号からのテレビ中継が終了したすぐ直後、司令船パイロットのジャック・スワイガートが正確な酸素残量を計測するためのルーティン作業であるタンク内の撹拌用ファンのスイッチを回したとたん、大きな爆発音と振動、つづいて機体がめまぐるしく回転し始めてしまう。

Houston, We've had a problem.

は、NASA以外でも、なんらかトラブルが発生したときに口走る言葉となってしまった。

このとき何が起きていたかというと、ファンへ送電するための回路のなかに不良コイルがあり、ショートし火花が発生、2基あるうちの第2酸素タンク内で皮膜が発火、あっというまに圧力が限界を超え、爆発に至ったのである。「コイル不良説」は後々の事故調査委員会によって明らかにされたもので、事故が起きた当時、飛行士たちは隕石の衝突によるものであると思っていた。

□ラベル船長の超人的な操縦により、13号は安定を取り戻すのだが、窓の外を見ると白いガスが漏れ出していることに気がつく。やはり酸素であったわけで、爆発を起こした第2酸素タンクは圧力がゼロに、第1酸素タンクも残量が減りつつあった。これ以上、司令船で支援船から支給される酸素を使い続けると、支援船からの酸素が切れ、司令船の酸素を使わざるを得なくなる。この酸素に手を出してしまうと、最後の大気圏突入の際に、酸欠を起こしてしまう。残された手は1つということで、司令船の電源を切り、月着陸船(LEM)を急ぎ起動し緊急避難を行ったのだ。

□そもそもLEMは2人が月に着陸するためだけに設計されていたのだが、この緊急事態下では2人+司令船パイロットの3人が乗り込むことになり、それは想定外のことであった。

実際のところ、ジーン・クランツの判断は冷静で、そもそもアポロ計画では宇宙しか飛行しないLEMの設計に手こずり、圧倒的な信頼感が得られるまで、予定の時間よりも長い時間が設計にかけられていたおかげで、LEMの設計を行ったダグラス・グラマンのエンジニアから進言をうけていたこともあり、3人乗っても大丈夫だとの確信を得られていたようだ。この開発の遅れが13号の3人を救ったとの見方もありえるのである。

□この事故により月着陸は中止となり、ミッションは3人を地球に帰還させるということにフォーカスされていく。事実、当時のニクソン大統領は、3人の飛行士の生存確認が取れなくなった段階で出す声明文を用意していたらしい。

NASA内で即席のチームがいくつも作られ、それこそ食堂のおじさんまでもが動員されて様々な問題に対応していく。まずはどう帰還させるかということで悩むわけですが、Uターンさせて帰還させるか、もしくは月の引力を使ってブーメラン方式で地球に帰すかという2つのプランがあったのですが、Uターン方式では爆発のあった支援船側のエンジンを噴射しなければならないというリスクがあったため、時間は余計にかかるが安全なブーメラン方式をとることになった。

□アポロの宇宙船は酸素タンクから呼吸用の酸素と発電用の酸素を供給する仕組みになっていた。これは今日、家庭用で実用化が進みそうな燃料電池の技術である。酸素タンクの圧力が喪失した段階で、電力供給源も弱まり、司令船は酸素だけでなく電力不足にも陥っていた。同じことがLEMにもいえるわけで、2人が3人となると呼吸用の酸素も増え、さらには想定以上の時間をLEMで過ごさなければ成らないわけで、発電に必要な酸素をカットし呼吸用にまわす必要がでてくる。よってLEMまでもコンピュータ(といっても当時のコンピュータはファミコン以下)やヒーターを切り、とにかく電力を節約しながら地球へと向かっていた。なおこのとき、月をいつものアポロの飛行より月面から100キロほど高い高度を飛行したため、人類がもっとも高くに到達した人としてギネスがこの3人を記録している。

□極寒の中、3人は着実に地球への距離を縮めて行くわけだが、地上はいくつも起きる難題を解決していく。2人に3人ですからたとえば吸う酸素が不足しがちな反面、はき出す二酸化炭素が増えすぎてしまうという問題が起きてしまう。地上で「宇宙船の中にあるもの」で丸い司令船用の二酸化炭素フィルターを四角いLEM用のフィルターに合わせるという課題を克服。これはNASAのあらゆる人が協力したらしい。地上でシミュレートされたその作り方は、早速、宇宙にいる3人に伝えられ、製作され事なきを得た。ちなみに使われたものは「飛行士の使用済み靴下」「必要がなくなった飛行計画書の表紙」などだったそうです。

□最大の難題は、一度電源を切り、冷凍状態にある司令船を再起動させて、支援船、つづいてLEMを切り離し、パラシュートを開いて帰ってくるという最後の行程である。なにせ電源を切っていたとはいえ、電力が足りないのは事実であり、設計通りの起動方式では電力が足りず、パラシュートが開かないという事態が発生してしまう。電力をロストしないためには新しい手順を短期間で作り上げる必要がある。通常、このようなマニュアルは何ヶ月もかけて作るものだがここで、打ち上げ3日前に交代さえられた飛行士ケン・マッティングリーが大活躍する。元々宇宙飛行士の中ではもっとも司令船について詳しいのがマッティングリーだと言われており、彼がその手順を本当に作り上げてしまうのである。もしかしたら、マッティングリーが飛行していてシミュレーターに入れなかったら、帰還できなかったのかもしれない。

□このような有事の事態においてもなお3人の飛行士は至って冷静で、映画で描かれているような喧嘩のシーンなんてものは一切なかったとのことである。「騒いだって何も変わらない」と至ってクールであったそうだ。それは地上のジーン・クランツも同じで、とにかくパニックを起こしている地上スタッフをLet's stay cool, people.となだめ、スタッフの冷静な判断を引き出していた。また彼の言葉でもっとも私が好きな言葉、failure is not an option.つまり失敗は選択肢ではないという意味で、失敗することなど考えるな、成功する方法だけを考えろということですが、彼の根本にあるその哲学が、帰還を導いたともいえる。話はそれるが、映画アポロ13でジーン・クランツを演じたのはエド・ハリスであるがその風貌、台詞回しの様相は本人とそっくりでした。

□地上スタッフの団結しながらも個々の能力を最大限に生かしながら、様々な難題をクリアし、最後の行程へと突入する。まず支援船を切り離すのだが、ここで初めて、飛行士も地上スタッフも実態を把握することになった。まだ隕石の衝突だと思われていた爆発の原因だが、パネルが一枚吹き飛んで、中身がむき出しになっていることが初めて見えたのである。爆発の威力はやはり大きかったようで、彼らは司令船の耐熱シールドにヒビが入っていないかと心配になったそうだ。もしヒビが入っていたら、酸素との摩擦熱でプラズマが発生し機内に入り込み即爆発してしまう。だがこれを確認する手段はなかった。ここで初めての神頼みとなる

□さて2/3となった13号、次はLEMを切り離し司令船のみ地球へ帰還する。LEMは宇宙空間を飛行するための設計なので、酸素との摩擦で高熱を発生する大気圏突入はできないため、最後は再起動に成功した司令船へまた乗り移り、耐熱シールドに不安を抱えた司令船で地球へ帰ってくる必要がある。

□救命ボートとして地球の寸前まで運んでくれたLEMに別れを告げ、1/3となった13号は大気圏へと突入していく。船長が地上スタッフをねぎらう交信をするのが、この交信は多くの人々を感動させた。大気圏突入が始まってしばらく経つとブラックアウトと呼ばれる交信不能時間が発生する。これは高熱でプラズマが機外に発生するためで、およそ3分つづく。3分がすぎても交信が再開せず、半ばあきらめムードが漂ったとき、交信が再開、まさに奇跡の生還を果たしたのである。ちなみに映画ではジム・ラベル船長役をトム・ハンクスが演じていたのだが、ジム・ラベル本人も司令船を回収するヘリコプター母艦イオージマの船長役でカメオ出演している。劇中、トム・ハンクスに敬礼し握手しているシーンがあるので確認してみてほしい

□後日、発表された爆発の原因として、前述の通りコイルの不良があったためだとされている。支援船の設計変更により電圧の変更があったにも関わらず、コイルに流れる電流を一定温度以上にあがった場合に止める指示をだすサーモスタットが電圧にあったものに交換されておらず、さらに地上での作業中に落下事故などがあり、タンク内にある酸素を拭き取るためのパイプが外れてしまう。落下事故により一度酸素を抜き出さなければならなくなったのだが、パイプが機能しなくなったため、ヒーターでタンクを熱し、気化させて酸素を抜き取る方法を技術者はジム・ラベルに提案する。計画の遅れを生じさせるわけにはいかなかったために、ヒーターで熱する方法を採択してしまう。無事に酸素は抜くことができたのだが、この時、前述のサーモスタットが交換されていなかったため電流を止める指示がだされずさらに、タンク内の温度を表示する計器が38度までしか表示されないようになっていたため、538度まで温度が上昇していたことに誰も気がつかなかったのだ。よってタンク内のコイルや皮膜は溶解してしまい、宇宙空間での大事故につながったと調査委員会は報告している

□「成功した失敗」と評されるのは、やはり地上のジーン・クランツをはじめとするスタッフが一致団結して難題に立ち向かったからである。数万人といわれるNASAスタッフが一丸となって瀕死の13号乗組員を帰還させたのである。ちなみに3人の飛行士はその後誰も宇宙へと飛び立たなかった。ジーン・クランツはスペースシャトルのミッションも担当したが、つい最近引退したようだ。


閲覧数7,713 カテゴリ日記 コメント4 投稿日時2010/04/20 03:31
公開範囲外部公開
コメント(4)
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  • 2010/04/20 05:11
    sugi-さん
    ステキなブログ記事。
    全部読んじゃいました (^^)!

    Let\'s stay cool, people.
    次項有
  • 2010/04/20 19:26
    ふるさん
    スペーシーな中学生ですな!
    楽しく拝読致しました。
    次項有
  • 2010/04/21 08:14
    宇宙シリーズやりますかね

    ・冷戦時代!米ソ宇宙開発戦争
    ・アポロ計画
    ・スペースシャトル計画
    ・宇宙ステーション

    ぐらいだったら中高で書いたものもあるし、いまでも資料参考なしで書けるぜ

    次項有
  • 2010/04/22 00:18
    追記。自己満足のために追記。最後、交信不能状態これをブラックアウトというのだが、なぜ長かったのか。それは突入角度が僅かに浅かったためらしい。2度の角度の誤差で進入しないと浅すぎたら水面に投げる石の水切りと一緒だし、深ければ抵抗が強すぎて燃える。ギリギリ浅かったらしいのですが、なぜ浅かったのか。これはかなりNASAでも灯台下暗しなんですが、月着陸しなかったから月から持ってくるはずの石やらサンプルが積まれてないわけでその重量計算を忘れてたんだって。

    なぞに思ってて、大学の時にNASAへ見学しにいった時に教えてもらった。

    次項有
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