● 9月11日夜、22時40分、横浜バスターミナル。
横浜駅東口バスターミナルから「ドリーム京都1号」深夜高速バスへ乗り込んだ。たまたま同じバスとなった横浜のHさんに挨拶しながら、少しはなれた窓際の席へ。単行本サイズのEeePCを開いて、イーモバイルを接続してメールのチェック。10日ほど前から、KyotoStreamingというライブ配信スタッフのML(メーリングリスト)に誘われて参加したので、毎晩深夜から朝方にかけて準備の進捗状況が送られてくる。
「京都メディフェス」開幕まで、あと30時間余り。期待というより不安のほうが大きかった。機材のマッチングが確認されていなかったからだ。インターネットを使ったライブ配信(ストリーミング)自体は珍しくはないが、オープンソースの「スティッカム」を使って、9台のPCとカメラで「同時多元ライブ中継」を行うというのは、はじめての試みだ。
MLで京都スタッフから、使用機材の最終リストがあがってきたのは9日朝。機種名をみると、パナソニックのPC(Vista仕様)(=CF-Y7Bほか2機種)10台、パナソニックのハイビジョンDVカメラ=AG-HSC1U(SDカード仕様)5台、ソニーのハンディカム=DCR-TRV70K(miniDVテーブ仕様)7台。機材はメーカーや大学から貸し出しをうける予定で、12日昼にならないと会場に搬入されない。 「VistaのPCとカメラ接続の検証がとれていない。P社ビデオにはストリーミング機能がないとわかった」というメールも流れており、VistaをXPにダウングレードして使おうかという説もあったが、これも手間がかかる話だ。通信環境が無線LANというのも不安定な要素だった。 横浜・赤レンガ倉庫の「ハマ波150」のイベント中継(実験)で、無線LANは電波状態が変わりやすいのでよく落ちるという経験があり、イーモバイルのほうがましだった。これも台数がふえたら電波次第だ。
深夜バスの車内でメールを読んでいると、「本日、パナソニック端末とソニーカメラが届きました。ただいま検証中ですが、わかったことを書きます」という22時に発信されたメールが目に入った。
提供されたパナソニックPCとソニーカメラ(USB接続)ではストリーミングは難しい、という情報だった。 スティッカム社が提供するWebカメラ(50台)もXP仕様で、Vistaには対応していない。
「XPのPCとそれに接続できるビデオカメラを、できるだけたくさん持ってきてください」という緊迫した状態だった。最悪の場合、ストリーミング可能なビデオカメラ1~2台をXPで動かし、あとはVisata対応のWebカメラを買いに走ればいい。もうここまできたら、現場でなんとかやってみるしかない……そう思いながら、すこし仮眠することにした。
12日早朝の5時35分、京都スタッフのKさんから徹夜作業の検証結果のメールが流れた。
「手配してくださったソニーのカメラですが、iEEE1394インターフェイスのPCカードを使ってpanaのPCと接続でうまくいきました。この方法であれば、大丈夫です。ぎりぎりの所での技術的なトラブルはイベントの醍醐味なので、楽しみながら、中継を成功させましょう」
駅の反対側にあるビジネスホテルのレストランへ。ここは電源を使わせてくれるので、窓際のテーブルでHさんと朝食を取りながらPCを充電。ライブ中継の対策を話し合い、Hさんは早速、窓際からスティッカム中継をはじめた。
http://www.varietyjapan.com/column/hazama/2k1u7d000…0v1kh.html
10時過ぎに四条の友人宅へ向かい、預けっぱなしになっていたパナソニック・ビデオカメラを受け取り、15分ほど歩いてホテルに重い荷物を預けに行った。
http://www.shiminmedia-kyoto.jp/movie/ このイベントの運営方式は、「市民メデイア全国集会」という共通のプラットフォームを、開催地として名乗りをあげた京都実行委員会が責任をもって運営にあたり、各地からの参加グループはそのプラットフォームを活用して、自分たちの情報発信(事例紹介や討論)の場をつくるというものだ。 そして分科会開催の「名乗り」をあげた全国各地のグループは、分科会を責任をもって運営し、京都実行委員会はそれをサポートする。つまり多数の主催者をもち、その「プラットフォームの運営責任者」(設営から撤去まで)が京都実行委員会の役割。それぞれの役割を尊重しながら、自らの責任分担を果たすのが仕事だ。 このプラットフォームを動かすために、聴衆もボランティアも実行委員会スタッフも分科会パネラーも、いわば「共益費」のようなかたちで参加費(2日間パス=8000円)を分担して支払う。
現実に横浜から参加するとなると、交通費・宿泊代を入れると5万円はかかる。そこまで経費をかけて「ボランティア参加」するかどうかは、聞きたい分科会もあったので、正直なところ最後まで迷っていた。(結局ほとんど内容は聞けずじまい)まあ、スティッカムで中継できれば録画もアップできるし、あとからネットでみればいい。そういう意味でも、中継の経験をつむことは価値があるだろうと思うことにした。
京都メディフェスの会場は、木屋町にある廃校となった元立誠小学校の校舎。電気がきているだけで、階段もミシミシという老朽化した施設。教室の中は雑然としていて、机とイスがあるだけだ。大学生たちが看板を作成したり、設営の準備がはじまっていた。必要な機材や通信回線も、すべて自分たちで持ち込まなければ、イベントは始まらない。
「インターネット同時多元ライブ中継」「Web上にアーカイブを保存する」という意味はだから大きい。現地に来られなくとも同じ時間を共有できるし、あとからアーカイブで分科会の録画を自由にみることができる。 主催者が「京都メディフィス」のサイトに、9つのライブ中継画面(+まとめの1画面)を使って、インターネット中継を実現したいと計画したのは、こういう事情からだった。
ただ京都のスタッフには、スティッカム経験者が少ない。というか、イベント中継の経験者がいなかったので、横浜のメンバーへ応援要請があった、というこれは裏事情。副実行委員長のTさんが、出張のついでに横浜のZAIMカフェまでやってきて、数人のメンバーと最初の打ち合わせがあったのは1ヶ月ほど前のこと。(私は仕事があったので参加できなかった)
さて現場。小学校の正門から校舎に入って、すぐ左の教室に「メディアセンター」の看板が出されていた。机の上にズラリと並んだ10台のPC。その脇の机には7台+5台と2機種のビデオカメラ、三脚が7台。作業しているのはTさん(中継責任者)、東京から来たスティッカム社の技術サポートのTTさんのお二人。
「いまVistaのマシンをXPとして認識(互換性機能)して使えるように、設定変更しています」と微笑むTさん。
はじめて手にするソニーのビデオカメラ(Sony DCR-TRV70K)、バッテリーは充電中。ネットで検索した取扱説明書には、ざっと目を通してきていたが、100頁以上あったのでプリントまではしていない。いろんな機能がついているので、その中から「ストリーミング設定」をさがしだす。
このあたり、ビデオ歴の長い横浜のHさんは手際がいい。miniDVテープの60分を使用するという。テープチェンジはカメラを裏側にひっくり返して取り出しボタンを押すというタイプ。これだといちいち三脚からはずさないといけない。
「ちょっとやっかいですね」。60分テープも微妙。スティッカムの録画機能が1時間しかないので、1時間ごとに2つのことを同時にしなければならない。カメラには業務用ガンマイクと5mコード、USBコード、電源コードと3本のケーブルが繋がったまま、三脚からアタッチメントとネジの両方はずすと時間がかかる。
「スティッカムも、うまく録画できないことがありますね。保存ボタン押した後、すぐに電源落とすのもまずいみたい」
ちなみにストリーミングに必要な通信速度は1.5Mbps以上(=下り通信速度。上りはその半分以下になる)で、1.0Mbpsを下回ると画面がカクカクして固まる(経験値)。1時間のストリーミングで100MB前後のデータが送信される(イーモバイル接続画面によるデータ)。これがサイトに録画されるときに、サーバー側での処理時間がかかるようだ。 また、イーモバイルを街中で使った場合、通信速度は日中で1~2Mbps前後とライブ中継可能な範囲だが、場所や時間帯によって動きが遅くなることもある。(gooスピードテスト計測)
メディアセンターの教室内にあった機材はほかに、デジタルコンパクトカメラ10台、Webカメラ(30万画素)50台、ネットワーク・プリンタ2台。いずれも初期設定はまだ。
午後3時過ぎ。「こんにちは~。お手伝いに来ました」と東京からのボランティア、元気者はっしー(26歳・女性)がやってきた。ジーンズ姿で寝袋も抱えている。「青春18キップ」でやってきて、京都では知り合いのところを泊まり歩くという。ビデオ制作やスティッカム中継の経験者だ。(この人は、じつはスゴイ人だと後にわかった) http://blog.livedoor.jp/tsstvasu/
前夜祭中継まで、あと3時間。
(PS.)
現在、「京都メディフェス」の会場は撤去されましたが、Web上にビデオ・写真画像を収集し、見やすく使いやすく「アーカイブする作業」が続いています。また次のエリアやイベントに役立て、技術継承するため、スタッフ間ML自体が、運営マニュアル・技術マニュアルのような形になりつつあります。
スティッカムという「個人のライブ配信」を前提にしたオープンソースを、業務用に活用するにはカスタマイズも必要です。イベント中継にいたるまでの、その作業プロセスを共有でき、今後も進化させることができるという意味では、「Web2.0型のイベント」だということができるかもしれません。この作業が完了して、やっと京都メディフェスも「イベント終了」となるのだと思います。
全体の運営方法も、従来の企業・団体主導のフォーラムなどと異なり、自発的な「市民メディア」というネットワークを生かしたイベント(=リアルな場とWeb上で公開する「オープンプラットフォーム」)の新しい姿ではないかと思いました。
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