思想としてのロック不在の悲劇 「自由への道1~6」サルトル著、海老坂武・澤田直訳、岩波文庫 サルトルはフランスの哲学者として有名だが小説を書いていたことまではこの本を手にするまで知らなかった。登場人物はすべてファーストネーム、こなれた翻訳で読み飛ばすことができた。 第2次大戦にフランスがどのように巻き込まれていったのか知ることのできる貴重な資料。そして当時のパリの状況が現在の東京と似ていることに驚く。 第一部分別ざかり:大人になりたくない若者はこの時代のパリにもいたが、当時は思想としてのロックはまだない。反戦を主張しているのは俗物な大人たちで、若者たちは進んで戦おうとする。ひょっとして現代日本の若者にも反戦は手あかにまみれた俗物なのかと背筋が寒くなる。 第二部猶予:仏英VS独の緊迫した外交交渉がパリのまちにも影を落とす。 画面が二重映しになって場面がかわる映画の手法を小説でやっているのだが、一つの段落で場面がかわるのはちょっと読みづらい。 第三部魂の中の死1:軍備に劣るフランス軍は早々に敗退、休戦協定が結ばれる。ドイツ軍の進駐を待つ間に将校たちは逃走。主人公マチウ(第一部の主人公でもある)は機関銃で最後の抵抗を試みる。 第三部魂の中の死2:マチウの親友ブリュネ(共産党員)は捕虜となった。解放の日を待ちわびる捕虜たちは列車に乗せられ移送される。「行く先はドイツではないか」、不安に押しつぶされていく捕虜たち。 第四部奇妙な友情1:ドイツ国内の収容所での日々、ブリュネは共産党教育と敵愾心をあおることで仲間の精神的均衡を保っていた。そこに共産党幹部シャレーがあらわれ、「共産党は平和主義、敵はドイツよりもイギリスの資本家」と批判される。側近だったシュネーデルが党を「売った」過去も知らされる。失脚したブリュネもまたシュネーデルとおなじ立場に立たされるようになり、彼に共感を覚えるようになる。二人は脱走を決意するが、それはナチに通報されていた。 「奇妙な友情2」不在のため、あるいはイギリスに亡命した登場人物(マチウの教え子)のその後が描かれることなく終わっていることから、「未完」と言われる本小説だが、ストーリーとしては完結している。 タイトルに反して、袋小路に追い込まれる若者たちの姿が一貫して描かれている。 フランス人もまた自らの手で解放の日を勝ち取ることができず、アメリカの参戦を待たなければならなかった。このことはフランスの原子力政策にも影を落としているのかもしれない。 山田がく(放送作家、環境研究所主宰)、男、55歳 |