原稿用紙は広げられたままだ

原稿用紙とペンを買い求め
キッチンテーブルに広げてはみたが
さりとて
何を書くわけでもなく
原稿用紙は広げられたままになっている

「一日3枚、そこから小説を書くペースをつかんでいきましょう」
ラジオで高橋源一郎が言っていた
でも、原稿用紙は広げられたままだ
物語が立ち上がってくるわけでもなく
作者の思いの丈が綴られるわけでもなく
原稿用紙は広げられたままだ

リッチー・ブラックモアの音楽をプレーヤーにかける
むりやり受験勉強を始めるときのように
40年の歳月はレコードをＣＤに換えたが
聞く者の心情は変わっていない
コージー・パウエルの炸裂するドラム音に後押しをお願いする
だが、重低音が捨てられたＣＤの音では
昔のように奮い立ってペンを取ることもない

原稿用紙は広げられたままだ
冷め切ったコーヒーをすすってみても
カップの中も頭の中もカラになっていくばかりだ
「家に帰るんだ、連れ帰ってくれ」
叫ぶように歌っているロニー・ジェムズ・ディオも
コージーも
すでにこの世の人ではない
からっぽの原稿用紙だけが
目のまえにあり続けている