「地球温暖化対策の中期目標に関する意見交換会」が4月20日(月)、霞ヶ関の内閣府で開かれた。 これは地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を2020年レベルで、どの程度削減するか 6つの選択肢を提示して、国民の意見を聞こうというもの。 地球を守りたい市民・環境NGO(非政府組織)と、企業活動への新たな負担を避けたい産業界とのあいだで 意見が対立することは、事前に予想されていた。 意見交換会は、斉藤鉄夫環境大臣、高市早苗経済産業副大臣の出席のもと 福井中期目標検討委員会座長(元日銀総裁)が、日本のCO2削減の6つの目標と それに必要な対策・政策、それにより予想される経済への影響予想について分析結果を発表。 これについて、日本経団連、日本商工会議所、気候ネットワークの代表が意見を表明し、 その後、会場からの意見発表となった。 会場(200人の市民が参加)の大半を占めていたのは、黒いスーツのサラリーマン。 主催の内閣府は「参加希望者が多いときは抽選」と言っていたが 女性や若者、商工業者の数はとても少ない。 環境NGO関係者は「うちの希望者は全員(抽選で)落ちた」と語っていた。 会場からの意見表明では、 産業界関係者の主張する1990年比プラス4%(CO2削減率が最も低い)と 婦人団体・市民団体の主張する同年比25%削減(削減率が最も高い)とが 真っ向から対立する形で進められた。 ということは新聞でも紹介されていたが 問題はその中身。 「主婦の立場として」と、もっとも低いCO2削減率を訴えた女性は、 新調したスーツに美容室でセットしてきた髪型。 じぶんの財布の中身は心配していたが、じぶんの子どもたちが将来どうなるかについては、 心配するそぶりをまったく見せなかった。 隣に座っていた男性は、当日配布されたものとは別の資料を持っていた。 さりげなくその内容を見ると「想定問答集」。 どのような意見を表明するべきか、会社から配布されたコピーのようだ。 (配布された資料が、ちょっと色の付いた再生紙コピーだったのに対して その男性が持っていた資料は白色度の高い、サラのコピー用紙だった)。 そして司会者は、(わたしを含め)周囲で手をあげていた人物を注意深く避けて くだんの男性を指名したのだった。 その男性が最も低いCO2削減率を主張したのは言うまでもない。 製鉄所労働組合、鉄鋼連盟、石油連盟、原子力関係等々、産業界から意見を表明した人たちの多くは ドメスティック(国内向け)製造業だった。 「われわれはこれまで、乾いたぞうきんをしぼるようにして省エネに努めてきた。 その実績が評価されず、今まで何もしてこなかった国々と同等に扱われるのは不公平だ」 彼らは、判で押したように同じ主張をくり返した。 このような光景は、過去に見た覚えがある。 米の自由化反対や、政府による米の買い取り制度の維持を要求した、かつての農協だ。 その要求はことごとく時流に砕かれ、 農協の言うがままに反対運動を繰り広げてきた農家はたいへんなことになった。 (じぶんで販路を切り開いてきた農家は健闘している) この日の産業界の発言者は、ほとんどが30~40代。 1970年代の石油ショックのときに本当に苦労した人たちは、彼らよりも1つか2つ上の世代だ。 その人たちが、本当に「乾いたぞうきんをしぼるようにして省エネに努めてきた」結果が 「Japan as No.1(ジャバン・アズ・ナンバーワン)」と言われた80年代の繁栄だった。 発表者たちは、先輩たちの努力のうえに、バブルを享受した世代であって 「我々は努力してきた」と発言する資格が本当にあるのか。 ひところ、幼稚園・小学校の徒競走で全員が手をつないでゴールすることが問題になったが この日の産業界の人たちの意見は、まさに手をつないでゴールをもとめているとしか聞こえない。 というのも、省エネ技術のさらなる進化・深化はコスト削減と国際競争力の強化を意味するからだ。 日本車が世界進出を果たした原動力が、環境技術だったことも忘れてはならない。 意見交換会での彼らの要求は、「省エネ努力に疲れたから休ませろ」と言っているように聞こえる。 これは日本の産業界にとって、大いなる危機であり、 日本の製造業がアメリカの「ビッグ3」のように黄昏れていくことを予感させる。 もっとも、CO2排出量のデータで見ると、工業界はがんばっている。 日本中の排出量が増え続けるなかで、工業界からでるCO2排出量は減少傾向にあるからだ。 しかし彼らが「反対」を口にすることで、CO2排出が増えている運輸関係、オフィス・商業施設関係が野放しにされている。 排出権取引が導入されれば、工業界は商業界から多額の利益を得ることができるはずだ。 そんなことは、経団連も商工会議所もふれようとしない。 「なんの努力もしてこなかった人たちと同列に扱うのか」 その言葉は、まず国内にある他の事業者に向けなければならない。 そして地球がだめになれば、企業活動は不可能になる。 そのことは、CO2削減のための費用負担の比ではない。 (温暖化がさらに進めば、カトリーナ級台風が毎年、日本にも押し寄せるだろう) 「あなたたちは、2050年に生きるわたしたちのことをどう思っているのか」 ひとりの大学生が、そう迫った。 これに対して、高市副大臣をはじめ、産業界はなんのコメントもできなかった。 むしろ黙殺したと言ってもいい。 じぶんたちがつとめている間さえ、なんとかなればいいと思っているのかもしれない。 そのような米企業マインドが、現在の大不況を引き起こしたことを忘れてはならないだろう。 写真左から、福井座長、斉藤環境大臣、高市経産副大臣 報道関係は女性がいるのに、会場は男ばかり 外はものものしい警備。 |