書評『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』 村上春樹著、文春文庫 高校時代のボランティア仲間はその名字からシロ(女子)、クロ(女子)、アオ(男子)、アカ(男子)と、呼ばれ、 主人公、多崎つくるだけが色が持たなかった。 このことは、多崎に「自分には個性がない」と思わせる要因となった。 この5人は固い絆で結ばれていた。 4人が地元名古屋の大学に進学したのに対し 駅の設計を強く志望するつくるだけが東京の大学に進んだ。 そんなつくるのところにある日、仲間から絶交が宣言された。 ショックから死の淵をさまよったつくるは それ以前とは、体格も顔かたちも違う人間になってしまった。 死の間際にいたつくるを救い出すと忽然と消えた年下の友人、灰田。 灰田の父は、若いころ放浪し、九州の山奥の温泉で不思議なピアニストに出会った。 そのピアニスト、緑川は死に至るトークンを持ち、次に渡す相手を探していた。 36歳になり、電鉄会社で駅の設計をしていたつくるのまえに 2歳年上の女性、沙羅が現れた。 沙羅は、つくるの抱えている疎外感を感じ取り 過去と向き合うことを勧める。 かくしてつくるは、名古屋へ、そしてフィンランドへ向かうこととなる。 ふたつめの『ノルウェーの森』とでも言うべき作品。 ここでも心を病んだ少女が主人公に影を落とすことになる。 村上春樹はより純文学色を強め 以前よりも書き込みが増えたように感じられる。 ブックカバーデザインは単行本のものから変更されているので注意。 |