教室に算数の勉強に来ている小学5年生のYちゃんと、いつも通り「さあ始めようか」と言ったとき、彼女の手元の紙に、カラフルな可愛いペン文字でなにやら和歌のようなものが書きつけてあるのに気がついた。「田子の浦に うち出でてみれば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ」。「ほう」と思って聞いてみると、なにか学校で好きな子どもたちが、小倉百人一首を覚えて遊んでいるとのことで、自分が「高校生」の頃授業を機に友人たちと正月のかるた遊びをしようと暗記に興じたことがあって、それも遅いけれどもいまやまったく忘れてしまっていることを思い出して、Yちゃんに「イヤー、カンシン、カンシン」と言ってしまった。この山部赤人の歌には、万葉集での原歌があって、「田子の浦ゆ うち出でてみれば 真白にそ 富士の高嶺に 雪は降りける」という歌のほうが個人的には好きなので、おもわず「田子の浦ゆ」と言いはじめたところ、普段はおとなしいYちゃんに「田子の浦に」と「強く」言いかえられてしまった。万葉集からのことを話し始めると、算数が始まらないので「こんどにしよう」と、気分よくおさまった。いつもは、近所の小学校に辛口の北埜センセイも、子どもにもさまざまな「白妙の」風景がある、と少し反省することにした、次第。
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