アメリカと日本のBSE(狂牛病)対策に対する 考え方の違いを端的に表した文書があります (実際にはウエブ上に書かれた文章です)。 米国食肉輸出連合会「アメリカン・ビーフ&アメリカン・ポーク公式サイト」は、 「輸出」という言葉からも分かるように アメリカ産牛肉(と豚肉)を日本に売り込む アメリカ食肉業界団体の日本向けサイトです。 http://www.americanmeat.jp/csm/safety/more/faq/index03.html# ここにはアメリカでのBSE対策が紹介されているのですが、 なかなか興味深いことが書かれていますので 引用してみましょう。 ○BSE検査の目的 「BSEに対する国民のパニック状態を治めるために、 日本では食用牛の全頭検査(略)を行っています」 これに対して、 「アメリカでは、BSE検査の目的は、BSEがアメリカ国内で どれだけ広がっているのか、BSE対策が効果的に機能しているのか を調査し、監視すること」にあると言うのです。 この二つの文章からは、言外に次の三つのことが感じられます。 1)「BSEというのはどうやっても発生するものだ」 (BSE検査の目的に「BSEの発生を抑える」とは書かれていません) 2)「アメリカの消費者はBSEでパニックに陥ったりはしませんよ」 (本当にそうなのか、単なる上から目線で言っているのかは、定かではありません) 3)「BSE対策は牛肉の生産者と流通業者のためにやっている。 被害が拡大すると経済への影響も大きいからね」 (アメリカの消費者のことがまったく触れられていません) アメリカのBSE対策は、その目的からして、 消費者が置き去りにされている印象を抱きます。 ○アメリカでのBSE検査状況 次に、米国食肉輸出連合会が報告しているアメリカでの検査状況を見てみましょう。 「アメリカは30か月齢以上の歩行困難な牛や死亡牛などから抽出検査をしています」 「歩行困難な牛」は、誰が見てもBSEが発症しています。 その感染牛から「抽出検査」ということは 「歩行困難な牛」であっても検査を受けてない場合があることになります。 (誤訳であることを祈ります) 米国食肉輸出連合会の言い分は 「と畜前の検査は全頭に実施している」 だから、安全、ということのようですが 日本の消費者としては「どうして成長過程で全頭検査しないの?」 と、聞いてみたくもなります。 ○全頭検査しない理由 全頭検査しない理由を米国食肉輸出連合会は次のように説明しています。 「現在使われている迅速検査の感度がそれほど高くなく、 若い牛の脳を検査しても異常プリオンの蓄積が少ないため 検出されないことが多いことから、 検査の対象を歯列によって区別できる30か月齢以上にしているのです」 「異常プリオン」はBSE発症の直接原因となるタンパク質です。 これは30か月齢未満の若い牛からは検出されにくいというのです。 そんなものにコストと時間をかけるのはムダ、ということでしょうか。 しかしながら、 「検出されないことが多い」は、「異常プリオンは存在しない」ではありません。 「迅速検査の感度がそれほど高くな」い、 彼らの使う検査器の限界です。 日本でこのような説明をしたら、どうでしょうか。 「感度の良い検査器を使え」と言われるか 暗黙の不買運動が起こるか どちらかでしょう。 米国食肉輸出連合会は、このような反応も 「国民のパニック状態」と言うのかもしれませんが これは、いわゆる「風評被害」とは違います。 「異常プリオンを持っているがまだBSEを発症していない牛」 どころか 「異常プリオンを持っているかどうかもわからない牛」が 検査をすり抜けて市場に出回っているからです。 「アメリカでは市場にまわる牛の平均月齢が20か月以下である」 とは、米国食肉輸出連合会も認めるところ。 「検査の対象を歯列によって区別できる30か月齢以上にしている」 のですから 「まだちゃんと検査できないうちに売ってしまえ」 という商売をしている と、言われても仕方がないでしょう。 それにもかかわらず、 「科学的根拠に基づいて、アメリカでは、全頭検査を実施していません」 と、胸を張られても困ってしまいます。 ○アメリカのトレーサビリティにも疑問 ちょっと見落としがちですが 「歯列によって区別できる30か月齢以上」というくだりがあります。 このことは、 アメリカでは1頭1頭の牛の耳にタグ(標識)をつけて 生まれてからと殺されるまでの履歴を書き込む トレーサビリティが行われていないこと を示しています。 前回、ご紹介したように 2012年、世界中でBSEを発症した牛のうち 1頭はアメリカの牛。 「科学的」が大きく揺らいでいるのは アメリカも同様、ということのようです。 (つづく) |