これまで見てきたように、TPPにまつわる日米二国間交渉は 産業界が相手国に輸出しやすくするための交渉、 ひらたく言えば、相手国に商品を売りやすくするための交渉でした。 ここでは消費者のことなど、完全に忘れ去られています。 「TPPに参加すれば、消費者はより安くお買い物ができるようになる」 と言う経済学者がいますが 値段の安さだけで物事を決めてしまって良いものでしょうか。 事実、これまで見てきたように アメリカ産牛肉は、BSE(狂牛病)に対する日本の消費者の不安を無視するかたち、 言い方をかえれば、 安さと安全性とをトレードオフにするかたちで 輸入が再開されました。 (「安全だ」と言い張っているのはアメリカの言い分で、 アメリカ国内では2012年にもBSEを発症した牛が出ています) また アメリカでの干ばつが今後も続けば (地球温暖化の深刻化により、干ばつはくり返され、 被害はより深刻になる可能性が高いと予想されますが) アメリカから牛肉が輸入できなくなることも考えられます。 その時まで国内の畜産農家は持ちこたえることができるでしょうか。 ここで思い起こされるのが、買い物難民のことです。 買い物難民とは、大手スーパーの撤退により、 近所で買い物ができなくなった人たちのことです。 地域に大手スーパーが進出してくると 人々はその価格の安さに惹かれて 昔からあった地元の商店(街)を顧みなくなります。 やがて地元の商店(街)は姿を消します。 その時、勝ち組であるはずの大手スーパーまでもが 採算にならないことを理由に撤退してしまうと 周辺地域の住民は買い物ができなくなってしまいます。 「車に乗ればどこでも買い物に行けるじゃないか」 と、言う人もいるでしょう。 実際、車でどこでも買い物に行けるのは、ガソリンが安くて 自分が運転できるだけの若さを保っていられる間のことです。 歳を取ったり、病気で運転ができなくなったら、どうでしょう。 ガソリン価格の高値が続いたら、どうでしょう。 そのうえ、50km、100km離れた町にしか 買い物ができる店がないとしたら、どうでしょう。 たちまち生活が苦しくなるのは、まちがいありません。 アメリカ産牛肉の安さに押されて、 国内の畜産農家が姿を消したら、どうなるのでしょうか。 「アメリカの牛肉があるからだいじょうぶ」 と、言っていたのに 干ばつのためにアメリカ産牛肉が輸入されなくなったら どうなるのでしょうか。 ちなみに オーストラリアもここ10年間にたびたび干ばつが起きていて 「オーストラリアから輸入すればよい」は 答えにはなっていません。 牛肉が、そして豚肉までもが 日本では食べられない日が来ることになります。 日米の政府は「そんなことは起こらない」と言うかもしれません。 しかし 最悪の事態を考えて対処方法を準備しておくのが 言葉本来の安全保障です。 (原発事故を見て分かるように、 日本政府は最悪の事態に備えるのが苦手。 平安貴族のように「考えないことは起こらない」と 信じているようです) 政府の言うことを信じるばかりで じぶんたちの食生活を守ることが はたして可能でしょうか。 (つづく) |