音楽評「夜の彷徨(さまよい)」ラリー・カールトン 1970年代の初め ウエザー・リポート、リターン・トゥ・フォーエバーなど 名うてのジャズグループがロックの世界に越境してきた。 シンセサイザーを使い ドラムスは16ビート。 でも 「ジャズ喫茶でかけてもらったら お客さんの半分は帰ってしまった」 (ピーター・バラカン) ジャズ・ファンは(少なくとも日本の) 「こんなのジャズじゃない」と思い ロック・ファンにとっては難解だった。 マハビシュヌ・オーケストラを見たジェフ・ベックは 「僕ならもっとわかりやすくできる」 と 「ブロウ・バイ・ブロウ」と「ワイアード」をつくった。 1970年代半ばのことだ。 1978年発表された ラリー・カールトンのこの作品は もっとわかりやすい。 Aメロ>Bメロ>サビ というロックやポップスの曲の展開を踏襲しているからだ。 (モダンジャズは主題を演奏したのち 各楽器のアドリブを回していく構成) しかもドラマーはTOTOのジェフ・ポーカロ。 リズム感がロックなのだ。 でも、キーボードの奏でるコードはジャズ。 しかもラリー・カールトンのアドリブは並のロックギタリストよりもうまい。 こうしてフュージョンという分野が確立することになった。 現在では、ウエザー・リポートもリターン・トゥ・フォーエバーもマハビシュヌ・オーケストラも フュージョンとして売られているが 1970年代半ば当時は「クロスオーバー(越境)」と呼ばれていた。 (ジェフ・ベックは当時も今もロック) フュージョンは「おしゃれなジャズ」として 当時の大学生の大人気を集めることになった。 当時マハビシュヌ・オーケストラは聞いていたのに ラリー・カールトンを聞くことはなかった。 どうしてだろう。 先日、古い「ロッキング・オン」を整理していて 裏表紙の広告にこのアルバムが掲載されているのが目についた。 あらためて探すと、レコード店では廉価版が出ていた。 ということで、今回のレビューとなった。 あまりにもわかりやすい心地よさ。 「ロッキング・オン」に広告が出ていたように <ロック・ファンに聞かせたいジャズ>色が、露骨なのだ。 フュージョンは、音楽産業が最も花開いた1980年代の到来を予言する あだ花だったのだろうか。 今でもこういう音楽を聴きたい人はいるだろうし 空港のラウンジなどのBGMにも使えるだろう。 繰り返し聞くたびに この作品でのジェフ・ポーカロのドラムスが大きなウエイトを占めていることに気づく。 (ライナーノートには はじめ、スティーブ・ガットのドラムスで録音したが ジェフ・ポーカロで録音しなおしたエピソードが紹介されている) これはジャズ関係者にとっても ある意味で屈辱的だったのかもしれない。 フュージョンのフォロワーが出なかったのは 案外そのような理由かもしれない。 |