テレサ・テンが死んだとき私は香港にいた。仕事で打ち合わせ中に、小さなオフィスの人たちが、テレサの死を伝えるテレビのニュースを見て、騒然となった。そのとき打ち合わせは打ち切られた。それほど香港の人たちにとって、彼女の死は「大事件」だった。日本では、「つぐない」や「愛人」や「空港」などいわゆる「日本の歌謡曲」で人気を不動にしていたが、台湾生まれの彼女が、香港や中国本土で人気があるということは、微妙に、日本でのものと「異なる」ニュアンスを持つものであることを香港では感じていた。当時、テレサの歌は台湾と香港と中国を確かに「繋いでいた」気がする。その何年か後、「ラヴソング(甜密密)」というレオン・ライとマギー・チャン主演の映画で、テレサの歌と幸せな「再会」をした。BGMでふんだんに使われていた彼女の歌が、人と人の「出逢い」にいかに「ふさわしい」かを実感した。そして人と人が離れていくことも、その「出逢い」を一層大事に思わせることを、感じたものである。感傷的な「重さ」を、テレサは歌っている、と思う。
|