私の大学の恩師は、当時大いに流行っていた「思想」や「哲学」で頭がカチカチになっていた私たちのゼミの席で、「あなた方、まず横文字(外国語)と(社交)ダンスをやりなさい」と言われて、ヘーゲルかサルトルかはたまたベルグソンかと待ち構えていた私たちの出鼻を挫かれたが、その先生とある日なにか雑談をしていたときに、「美空ひばりは、芸術かしら」と問われた。私にはそれがまるで口頭試問のように思われて、真顔で「いわゆる芸術であるとは思えませんが、「芸」と「術」は卓越しているのではないでしょうか」と賢しらげに応え、先生に苦笑されたことを思い出す。あれから三十数年が経つ。先生はまだお元気だが、何年か前イチローが米国で活躍し始めた頃だったか、「彼の野球に対する考え方(思想)は興味深い」とおっしゃられていたのが印象的だった。あれからのイチローのさらなる活躍について、先生はどうおっしゃられるだろうか。横文字もダンスも美空ひばりもそしてイチローについても、未だ自分には手つかずのような気がする。
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