IT業界に勤める友人S氏の語った話。ある日S氏は社長と一緒に大きいコンピュータの箱を抱えてタクシーに乗ろうとした。箱は大きいので当然にトランクへ。ところがその箱が意外に大きいのでトランクが締まらない。何か紐のようなもので締め押さえて行くところを、そのタクシーの運転手、手ごろな紐を持ち合わせていなく、なんとやおら自分が締めていたネクタイをとってそれで締め付けて走り出した、とのこと。この紐を探すのでパニックになった件の運転手、目的地についてみるとメーターを倒していないのに気がついた。S氏は、ネクタイを犠牲にしたその運転手の「心意気」に感ずるところがあり、料金をメーターがカウントしたであろう金額よりも多少多く出し、「釣りはいい」と「剣客商売」の秋山小兵衛式に払おうとした。が、その運転手、どうしても「余分」の金は受け取らぬ。横にいた「社長」は、「いいって言うんだからいいじゃないか」とイライラしながら言ったという。その顛末、S氏曰く、その運転手が、働く「心意気」だけでなく、「働くべきところ」と「共に」働くべき「ひと」はどうあるべきかを教えてくれた、そうな。
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