中学生の頃の国語の先生はS先生で、新任独身で溌剌としていてまるで「二十四の瞳」の大石先生のような雰囲気で私たち「田舎の」生徒たちに「国語」や「文芸」を教えていた。乱暴な「悪がき」もその先生にだけは、「まともな」受け応えをしていたことを、思い出す。私はその頃、バレーボール部で忙しかったが、「初めて」自分の小遣いで夏目漱石の「三四郎」と国木田独歩の「武蔵野」二冊の文庫本を書店で買い、S先生の課題である読書感想文に「感想」を書いた。その頃から多少ヒネ始めていた私は、「三四郎」より「武蔵野」の方が味わいがあって好きだ、というようなことを書いたが、「やはり」S先生は「三四郎」の「青年らしさ」もいいものですよ、と赤字でコメントをくれた。そして運動場ですれ違うたびに、自分の「文芸部」にいらっしゃいと誘ってくれたけれども、なんだか「軟弱」に思えた文芸部にはついに入らなかった。その後、S先生はいつの間にか結婚をされて、大きいお腹で変わらぬ「雰囲気」で教壇に立たれていたけれども、記憶はそこで途切れている。S先生は、お元気だろうかと時々思い出す。「ヒネ」て「生意気」だった生徒も今では「文芸」も「尊重」して社会人を「真面目に」やっています、と言いたいのだけれども。
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