津島美知子「回想の太宰治」と太田治子「母の万年筆」を続けて読んで、複雑な気持ちになった。津島美知子さんはいうまでもなく太宰治の奥さんで、「天才」と言われた太宰治との生活の思い出を、女として妻として、淡々と、ときには「冷静に」男として夫としての太宰を見つめていて、太宰の「弱いところ」も見逃していない。太宰は山崎冨栄という人と心中をしたが、津島美知子さんは彼女のことも自分以外の女性のこともその「回想」にはほとんど書き残していない。太田治子さんは、太宰の代表作のひとつ「斜陽」のモデルになった太田静子さんという人と太宰との娘で、治子という名前をもらっている。治子さんは、太宰を思い続けた母のことを「万年筆」で愛情を込めて書いている。全てが、太宰を取り巻く「渦」で、誰も幸せになっていないようであり、又みんなが結局幸せであったかのような気がして、遠くから見る者の予断を拒絶している。その二冊の本には、「静かな」寂しさが流れていて、太宰が生きていたときの「戦争」をあとから振り返っているような気にさせる。
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