お年寄りに席を譲ったら、木で鼻をくくったような対応をされ、いやな思いをした。お年寄りに席を譲ることがなんだか嫌になって、しかしそれもいけないような気がする。どうしたらいいのだろうか、との悩みを訴える10代の若者からの投書がきっかけで、いろんな意見が購読している新聞を賑わしていた。 とてもやさしい若者だ。これからもめげずに自分の正しいと思う行動をしてほしい。と同時に、席を譲られそれを断ったお年寄りへの配慮もいくつかあった。中には大人気ないとの意見もあるが、まだ若いと思っている自覚とのギャップがそのまま現れたのだろう、との意見が大半。 それで思い出した。数年前の自分自身の体験。50の半ばを過ぎたころだろうか。電車の中で立っていた自分の前の席に座っていた妙齢の女性が、立ち上がって席を譲ってくれようとした。ところが、私の対応は、今にして思えばまったく恥ずかしいものだった。一瞬むっとした顔をしたのだろうと思う。「いいですよ」とぶっきらぼうに、まさに木で鼻をくくったように、拒否したのだ。彼女は、「すみません」と小さな声で言って、気まずそうに座り直した。 何であんな対応をしてしまったのだろう。今でもそのやさしい素敵な女性に向かって、ごめんなさいと言いたい。少し言い訳をするなら、あまりに突然だったのだ。少なくとも自分にとって、席を譲ることはあっても、譲られるなんて遠い先のことだと無意識の思いがあった。還暦を越えたいまでも、週に2,3回は赤いロードバイクで走り回っている。ファッションだってその辺の若者に負けないくらいカジュアルなシティボーイっぽい雰囲気をかもし出しているつもりだ。舞台を30年以上やっている中で、何10歳も若い世代と対等にコラボだってしている・・・ それが突然だから。うろたえた。どう対応すべきか、ほとんどパニックになったのが本音だろう。それから何度か席を譲られる事態に遭遇している。気持ちのいい若者も多い。 しかし、いまでも馴染めない自分がいる。これをお読みの適齢期の皆さんに言いたい。素直に善意を受け止めるもよし、やんわりお断りするもよし。いずれにしても心構えをしっかり持っておいてください。 それは突然にやってきます。 |